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一般社団法人

日本訪問リハビリテーション協会


大住崇之さん

日本訪問リハビリテーション協会 認定審査会会長

 

【PROFILE】

おおすみ・たかし

2001年国際医療福祉大学卒業、同年理学療法士資格取得。埼玉医科大学総合医療センターに5年間勤務した後、専門学校の教員を3年間務めた。老人保健施設勤務を経て2010年4月、医療法人社団松恵会けやきトータルクリニック(千葉県松戸市)に入職。現在、リハビリテーション科科長としてPT、OT、ST計30名を束ねる。千葉県理学療法士会理事、松戸市リハビリテーション連絡会会長も務める。


地域にもっとリハビリテーションを! リハ職の組織化、働く環境づくりに奔走

理学療法士養成課程として4年制大学教育がスタートしたのは1992年のこと。大住崇之さんは、その6年後に故郷の徳島を離れ国際医療福祉大学(栃木)に進学し、介護保険制度スタートの翌年に理学療法士となった。訪問リハビリテーションとの出会いは大学時代の実習時で、「いいな」と感じたという。卒業後は大学病院勤務、専門学校教員など多様な経験を積みながら、様々なかたちで訪問リハにかかわってきた。介護現場をメインのフィールドとするようになって十数年。地域リハのさらなる活性化を目指し、活発に活動している。


大学病院附属の訪問看護ステーションで初めて訪問リハを体験

――訪問リハとの出会いからお話しいただけますか。

大住 医学系の進路を模索していた高校生のときに、「理学療法士(PT)」という職種の存在を知り興味を持ちました。しかし、当時はまだマイナーで、4年制大学でPTの養成課程があったのは全国でも数校。あいにく私の出身地である徳島にはなかったため、栃木の大学に進学しました。その実習先で、訪問リハというものを初めて知りました。そのとき、なんとなくいいな、と感じたのを覚えています。

 卒業後は大学病院に就職したので、日々の仕事は超急性期から急性期にかけてのリハビリテーションが中心でした。それでも週に半日程度、附属の訪問看護ステーションにヘルプに入る機会があって、垣間見る程度でしたが、新人時代から在宅医療にかかわることができました。

 

――大学病院にはいつ頃まで?

大住 約5年間、勤務しました。今振り返ると、このときの学びや経験が、その後、PTとして働くベースになっています。今では新人PTが就職先に迷っていたら、まずは大学病院で力をつけることを勧めるくらいです。しかし、当時の職場は本当に忙しく、このまま続けるべきか悩んでしまいまして…。上司に相談したところ、「臨床現場を一度離れてみてはどうか」と、PT養成校の教員の仕事を紹介してくださいました。それで、自分の中で「3年後に臨床に戻る」と決めて転職しました。

 

――どんな3年間だったのでしょう。

大住 いろいろな意味で刺激的でした。臨床実習で様々な病院に行き、理学療法を新たな側面から見ることができました。また、大学病院でも実習生を指導することはあったものの、専門学校では高校を出たての若い学生が相手です。戸惑いましたが、新鮮でもありました。学内で問題児とされるような学生が、卒業時には明確な目標を持つまでに成長したのは印象的でしたね。その学生が数年後、PTとして元気に頑張っていると連絡をくれたときは本当にうれしかったです。今、当時の教え子が2人、私と同じ職場で働いていますが、彼らもまた、教員をしていて良かったなと、感じさせてくれる存在です。


クリニックの訪問リハ事業に立ち上げから携わる

――今の職場とは、地域でのリハビリテーションに力を入れる千葉県松戸市の「けやきトータルクリニック」ですね。

大住 はい。私が入職した2010年は、当クリニックが訪問リハ部門を立ち上げるときで、その立ち上げ要員として私ともう1人のPTに声がかかりました。

 

――訪問リハの立ち上げというのは、どのようなかたちで進むのですか。

大住 営業といいますか、地域のケアマネジャーや住民の皆さんに、訪問リハを始めたこと、提供できることなどを伝えるのが先決です。そして、利用者さんが増えるのに合わせてスタッフを採用し、同時進行で各種マニュアルを整備していきます。私はプレーイングマネジャーとして、そのすべての業務をこなしながら在宅の方々のリハビリテーションに取り組みました。

 

――松戸市の訪問リハの状況はいかがでしょうか。

大住 2010年当時、訪問リハ事業所は数えるほどしかなく、セラピストも少なく、需要はあるが供給が追いつかない状況でしたが、次第に増えてきています。当クリニックでは訪問リハの依頼はすべて断らず、スタッフを増やして対応するのが経営者の方針だったこともあり、訪問リハ事業は急速に拡大し、セラピストも数年で10名まで増えました。現在までに3つのサテライト事業所ができ、訪問リハチームのスタッフは、PT、OT(作業療法士)、ST(言語聴覚士)の合計で30名。登録していただいている利用者さんも400名弱まで増えています。

 

――リハビリテーションの重要性への理解が進み、養成校も増えるなど環境は変わってきています。こうした変化はどう見ておられますか。

大住 リハビリテーションの需要はまだまだありますので、増えるのは良いことだし必要だと思います。ただ、増え方が急速過ぎて、質が追いついていないという側面もあると感じます。セラピスト個人、あるいは訪問リハ事業所や養成校の質を、全体的にもっと高めていくことが必要だと思っています。

訪問リハの依頼はすべて引き受ける「けやきトータルクリニック」
訪問リハの依頼はすべて引き受ける「けやきトータルクリニック」

「松戸市リハビリテーション連絡会」を設立し地域のリハ職の窓口に

――松戸市にはPT、OT、STの連絡会があるそうですね。

大住 2017年9月、私が発起人となって「松戸市リハビリテーション連絡会」(以下、リハ連)を立ち上げました。地域包括ケアの中でリハ職がどう活躍していくかを考えたときに、まずは身近な専門職同士の横のつながりが重要だと考えたのです。また、既存のリハ職団体は都道府県単位なので規模が大き過ぎて、地域で活動する際の窓口にはなりにくいんですね。そこで市単位の団体をつくり、行政はじめ医師会などの職能団体、各種事業所などとリハ職をつなぐ窓口役にもなろうと考えました。現在の会員数は個人会員が約40名、法人会員が11施設。どちらも市内の半分弱が登録してくれています。

 

――協会をつくった成果はいかがでしょう。

大住 松戸市は医師会の先生方が他の職種に向けて常に門戸を開いてくれていて、在宅医療・介護に関して言えば、医師会の内部組織である在宅ケア委員会の会議に、医師以外の職能団体の担当者も参加させてもらえます。我々リハ職も、連絡会をつくったことでこの会議に出席できるようになりました。これにより様々な職種の皆さんと直接知り合うことができ、地域で活動するうえで、大きな支えになっています。リハ連の設立大会には、三師会はじめ市内の各団体から会長クラスの方々が出席してくださるなど、皆さん協力的です。このようにリハビリテーションに対して理解のある地域で活動できることをありがたく思っています。

 松戸市には地域包括支援センターが15カ所ありますが、これらすべての地域ケア会議にリハ職が入っています。また、全国的にも珍しく、15包括それぞれに認知症初期集中支援チームが組織されていて、そこにもリハ職が配置されています。こうした場への人材の派遣依頼も、リハ連に公文書でいただけるので、地域の窓口としてはかなり有効に機能できていると思います。

 

――日本訪問リハビリテーション協会でも要職を務めておられますね。

大住 日本訪問リハビリテーション協会では、「認定訪問療法士」という独自資格の認定を行っています。私はこの資格の認定を行う部門の責任者、認定審査会会長を2022年度から務めさせていただいています。

 

――同協会に入られたきっかけは何だったのですか。

大住 情報収集、学術大会への参加など、訪問リハの質を上げていくための取り組みには、こうした団体の会員であることが必要です。そこで当クリニックで訪問リハを始めた数年後に、私から経営者に進言し、法人会員になりました。

 

――団体に所属するメリットを感じるのはどんなときですか。

大住 人のつながりが広がっていくことですね。特に認定審査会の会長になってからは交流の場が格段に増え、いろいろな方とお会いしたり、情報交換したりする機会もまた増えました。訪問リハのことをもっと知っていただきたい、もっと活用していただきたいと常々思っている私にとっては願ってもないことです。

 

――JHHCA(日本在宅ケアアライアンス)の印象はいかがですか。

大住 本当に多様な団体が参加されていて、とにかく「すごい」の一言です。

 JHHCAに参加されている方々は、すでに多職種連携や地域包括ケアに積極的にかかわっておられると思いますが、地域や現場によってはまだまだだと聞いています。そうした末端まで、多職種連携の意義や実践を広げていただけたらと思います。特に医師が門戸を開いてくださると連携が進みやすいことは松戸で実感していますので、医師と他の職種とのフラットな関係づくりなどにも力を入れ、きめ細かくアプローチしていただけるとうれしいです。


目指すは在宅高齢者の機能回復。心が動けば体は勝手に動く!

――ところで、ご趣味は

大住 ゴルフが唯一の趣味です。ただリハ連の仲間と楽しむことはあっても、仕事でゴルフをすることはありません。ゴルフを始めたのは大学時代で、同級生に誘われたのが最初でした。上手くなるのが楽しくて、今まで続いています。

 ゴルフは初心者とベテランが一緒にプレーでき、自分のレベルが上がるにしたがって目標が変わっていくから飽きません。この点は訪問リハに通じる気もします。訪問リハも、利用者さんの状態や環境によって常に目標が変わっていきます。その目標に向かって、かかわる人皆で頑張っていくところにやりがいを感じています。

 

――ベストスコアは?

大住 79です。

 

――すごい。利用者さんともゴルフのお話で盛り上がるのでは?

大住 ゴルフ好きな方はご家族含めて多いですから、そういう方々とは話が弾みます。私は他のスポーツも全般的に好きなので、スポーツの話をしながらリハビリテーションを行うことも多いです。好きなことを話題に楽しく話すのは、リハの視点からもとても大事だと思います。

 

――最後に、大住さんが考える訪問リハの意義、魅力を教えてください。

大住 訪問リハは生活期リハであり、機能回復を目指すためのリハビリテーションが在宅の場で必要かどうかがよく議論されます。私は、その方に回復の可能性があるのであれば、やはりそれを目指すこと、そして回復した機能を生活につなげていくことが訪問リハの真価だと思っています。個人的な意見ですが。

 

フットワーク軽く市内を駆け巡る
フットワーク軽く市内を駆け巡る

――訪問リハで機能訓練を行えばもっと元気になる人がいるということですね。

大住 そう思っています。その見極め、目の前の方の可能性をしっかりアセスメントできることが、私たち訪問リハにかかわるリハ職に求められる重要なスキルだと思います。 “生活の中で楽しく”だけではない、訪問リハはその方の可能性を広げるものなのだということを、一般の方々にも、専門職にも伝えたいと思います。動機づけがうまくいき、私たちの介入が効果的に作用したとき、リハの成果は目に見えて出てきますし、ご本人のモチベーションはより高まります。心が変われば体は勝手に動く。理想ではありますが、これが訪問リハの目指す境地だと思っています。

 将来的には松戸市全体が1つの病院のようになり、どこに所属していても同じ職場の仲間として気軽に連絡を取り合えるようになるといいですね。また、地域のリハ職の中で入院チーム、外来チーム、訪問チームのようなものができて、どこでも良いリハビリテーションを受けられる環境が整っていくことが理想です。そうなれば地域のリハはもっと面白く、もっと力強くなっていくと思います。


取材・文/廣石裕子